銭湯行動学

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江戸時代よりも古くから日本の伝統的文化として根付いてきた銭湯―。 

温かいお風呂で人々は疲れを癒し、お互いが本音でなんでも言い合える関係を「裸の付き合い」とも言うが、「銭湯」はまさに人々の交流の場としても栄えた。

そんな銭湯も戦後は全国で2万軒以上もあったものの、各家庭への風呂、シャワーの設置が進むにつれてその数は減少。現在、全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会の加入数は4,000を下回る状況である。

 

しかし今もなお銭湯の歴史はしっかりと受け継がれている。そこには古き良き時代の日本が映されているのだ。

 

 

都内某銭湯ー。

入口へ向かうと、まだ夕方の5時前だというのに下駄箱の札がかなり抜き取られているので、こんな時間でも中が割りと混雑していることが伺える。

下駄箱へ靴を入れて中に入ると番台の方がいる。もちろん常連客とは顔見知りだ。お年寄りのお客様と気さくに会話をされていて和やかな雰囲気が心地よい。

 

男湯の脱衣所へ向かうと、そこはさらに人で溢れていた。

やはり年齢層は高めだ。60歳は超えているだろうか。若い人はほとんどいない。きっと早めにお風呂に入って夕方から夜をゆっくりと過ごされて、早めに就寝される方が多いから混んでいるのだろうと思う。

 

脱衣所は狭いので、他の人の邪魔にならないように気を配りながら服を抜いで浴室へ向かう。そしてそこで目にしたのは懐かしい風景が、

 

黄色いプラスチック製の風呂桶、赤青の印で水とお湯が別々に出てくる蛇口、ホースは無く壁に固定されたシャワー・・・壁の富士山はないが、小さい頃に行った銭湯の懐かしさがそこにはあった。もちろんサウナ、水風呂、ジャグジー風呂など現代の技術も取り入れられている。

 

そこでの人々の行動はを一言で表すならば、まさに「礼」である。

マナーがよく、お互いが気を遣いあい、無駄使いはしない。具体的には、

  • シャワーは必要以上に出さない。頭を洗っている時にでもシャワーを出し続ける人は多いと思うがそのようなことをせず無駄な水を出さない。
  • 体を洗い終わったあとは、自分の座っていた場所やその周りをきちんと流して、風呂おけをもとの正しい位置へ直す。
  • 湯船内のポジショニングは、常に周囲への気遣いを忘れない。決してスペースを独り占めするようなことはしない。

とても気持ちが良い。

健康ランドやスーパー銭湯では周囲を全く気にしないマナーの悪い人をよく見かけるのだが、そういうストレスはほとんど感じられなかった。

 

少し気になったのは、

  • 水風呂で頭から潜っている中年男性。
  • 水風呂の水を桶で汲み、体に思いっきり掛け後ろの人に掛かってしまい注意されていた別の中年男性。

であるが、この人達は恐らく常連ではないのだと思う。ただし年配の方に軽く注意されて、おとなしく従っていたためトラブルにはならなかった。

 

きっと彼らは毎日のように顔を合わせる者同士であり、気持ちよく過ごせる環境をみんなで作ろうとする暗黙の了解、規律がここには存在するのだと思う。

 

エレベーター行動学では、ルールがあるようで明確には決まっていない場所においては、人間という生き物は「上下関係」を意識する傾向があると書いたが、ここでは違った。

 

古き良き日本の文化や、日本人の「礼」を尽くす心は失われていない。

銭湯を通じて日本人の美しさを改めて学ぶことができた。