「強い」と「温かい」どちらが好き?

とあるビジネスケース大会で賞をいただき、今ハーバードビジネスレビュー(HBR)を6ヶ月間無料購読させていただいているのだけど、もう少しでその期限が切れてしまう。いつも充実した内容を提供いただいて毎回毎回とても勉強になるのだが、これまで読みっ放しにしていたので、お礼と自身の備忘録として取り上げることにする。

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photo credit: Dakiny via photopin cc

 

今月のテーマは人を動かす力。いわゆるリーダーシップ論である。

 

会社の上司、学校の先生、クラスの学級委員長、部活のキャプテン、サークルやバイトのリーダーなど、この世には大小問わず無数の組織があって、そのほとんどにおいてリーダーがいる。そしてリーダーの発言、立ち振る舞い、ファシリテーションの仕方一つで組織の進み方、成果が大きく変わるのは経験上、ご承知の通りであろう。

 

では優れたリーダーとはいったいどのような人を指すのであろうか?

 

 

HBRの記事においては、リーダーの資質を「強さ」「暖かさ」の二つの観点から捉えている。

 

強いリーダーとして極端な例を挙げれば、マキャベリが書いた「君主論」であり、そのモデルであるチェーザレ・ボルジアである。15世紀のイタリア半島を混乱の中、自分の力を顕示し、目的のためには手段を選ばず、信義を守らず簡単に裏切り、そして恐怖によって人々を服従させ統制を図った。マキャベリは混乱期の中、リーダーは強さも温かさもあるべきだが、どちらも兼ね備えるのは難しいことであるからチェーザレ・ボルジアのように強さを追求する方が安全だと結論付けた。日本で言うなら織田信長タイプであろうか。「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」が表すように。

 

恐怖政治は一定の効果はあるだろう。最近はハラスメントの問題も取り沙汰されるため少なくなったと思うが、一昔前はどの業界でも営業の仕事をしていれば灰皿やら空き缶やらが飛んできたものだ。営業マンはその恐怖やプレッシャーに耐え、また開放されたいがために一生懸命取り組む。数字達成のための計画を細かく追求され、苦し紛れにまだ見込みの低い案件を並べなんとかその場を凌ぐ、そしてその案件を決めようと必死で努力する。そんな悲壮感漂う営業部隊は、数字が出来ようが出来まいが追求されないような、ぬるま湯的組織よりも目先の数字は確実にあがる。もちろん弊害はあるのだが。

 

ただ本書の立場はここまで極端ではないにしても、最近のリーダーの傾向として、自らの強さや能力を全面に推し出す傾向があるがこれは間違っているとしている。なぜならそれらの強さや能力を出す事によって、相手に恐怖心を与え、信頼関係を損ない、そして組織としての創造力や問題解決力を蝕んでしまうリスクが大きいからだ。信頼関係がなければ、たとえその場では指示に従ったとしても、心から上司に対して同調する可能性は低くなるであろう。

 

だから強さではなく「温かさ」を第一にして、信頼できるリーダーと判断されるようにできれば、チーム全体の創造力を高め、協働を生み、業務が円滑に進む。何よりも表面的な協力だけではなく、信頼の確立は部下の態度や考え方までも良い意味で変えてしまう効果が期待できるとしている。信頼がモチベーションを高め、やる気が結果へと結びつくことになり、さらに意識を高める。正のスパイラルだ。

 

この点は楽天の星野監督について、過去から遡ると頷ける部分がある。中日の監督時代はいつも怒っていた。そして恐怖で選手が萎縮していた。その中日の監督時代は11年でリーグ優勝はわずか2回。しかしその後の阪神では2年で優勝1回、直近の楽天はご存知の通り3年目で球団も星野監督も初の日本一を手に入れた。年を重ねる毎にマネジメントスタイルは変化しているように映る。最近では以前のような恐怖政治の微塵も感じないし、楽天はチームの一体感があるのは、主役が監督ではなく選手になったからではなかろうか。

 

それから何度もブログでご紹介している私の尊敬するリーダー、故ネルソン・マンデラ氏も「温かい」リーダーの最たるものである。説明はもう不要だろう。

  

現代、安倍首相、ユニクロ柳井社長、ソフトバンク孫社長、楽天三木谷社長など政治家や起業家にはカリスマと呼ばれる優れたリーダーがいるが、どちらかというと「強い」リーダーだ。カリスマが求心力を維持できるのは、その組織の成長が伴っているからだと思う。もちろんカリスマでなければそのような成長を実現することは出来ない。ただし組織の成長が低空飛行へ向かう時にこそ真のリーダーシップが問われるのだと思う。

 

そういえば、ビジョナリーカンパニー2にあったが、永く成長を持続できる企業には第5水準のリーダーと呼ばれる経営者の存在がある。それはただのカリスマ性をもった目立つリーダーではなく、個人としての謙虚さと職業人としての野心の強さという矛盾した性格を持っているリーダーであるということだ。きっとHBRの記事でいう「強さ」と「温かさ」を兼ね備えたリーダーなのかもしれない。

 

利己主義を捨て「温かさ」と「強さ」を兼ね備えるリーダーを目指したい。